バイスティックの7原則は対人援助者の行動規範

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「バイスティックの7原則」とは、アメリカのケアワーカーで社会福祉学者のフェリックス・ポール・バイスティックが提唱した相談援助技術の基本原則です。

1957年に出版した学術書「The Casework Relationship(ケースワークの原則)」の中に記されており、ベストセラーとなりました。
翻訳の仕方により「バイステック」とされていたり、「バイスティックの7つの原則」とされていることもありますが、同じものを指しています。

「バイスティックの7原則」は相談援助機関の対人援助において、より良い関係を築くための行動規範としてまとめられたものです。
現在では介護職でも活用されており、介護福祉士の国家試験でも出題され、重要な考え方であると認識されています。


また、対人援助に関係する保育士やその他の福祉職、医師や教師といった職業でも活かされています。

介護の現場において「バイスティックの7原則」は、ご入居者様やご家族様、職場での人間関係の構築に役立ちます。

仕事をしていく中で、様々な状況や感情により、心が乱れる場面もあるはずです。
そんな時に7つの原則に沿って物事を見直すことで、冷静に問題を振り返り、改善点や対策を洗い出すことが可能になります。

バイスティックの7原則とは

ここからは、バイスティックの7原則」を順番に解説していきます。
一つ一つの意味を適切に理解し、援助活動に活かしてくださいね。
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1.個別化

「個別化」とは、ご入居者様が抱えるお悩みや課題、困難な状況は、先入観や偏見にとらわれず個別の問題として関わるべきという考え方です。
なぜなら、似ているケースがあったとしても、家庭環境や個人の持つ価値観、置かれた状況は違うからです。

援助者は、ご入居者様お一人おひとりの人格や尊厳を尊重し、「同じ人は存在しない」「同じ問題は存在しない」と意識して対応します。
援助者によるラベリングやカテゴライズはせず、目の前の相手と向き合うことで信頼関係を築けるのです。

バイスティック氏は、個別化について「個人として捉えられることは、クライエントの権利でありニードである」と記しています。

2.意図的な感情表現

「意図的な感情表現」とは、ご入居者様の自由な感情表現を認める考え方。

ご入居者様に感情を自由に出していただくことで、援助者もご入居者様自身も外的・内的に現状を客観的に見直せるようになります。

特に不安や怒り、悲しみといったネガティブな感情を表に出していただくことで、ストレスの解消にもつながっていきます。

そのため援助者は自由に感情表現していただける環境や、人間関係づくりに尽力することが大切です。
具体的には、日々の信頼関係やリラックスできる環境、話しやすい雰囲気づくりなどです。
時には自分自身の悩みについて語ることも、ご入居者様に心を開いていただくきっかけになります。

感情表現を通じて問題を明確にすることで、解決策や援助方法を導き出せるのです。

3.統制された情緒的関与

「統制された情緒的関与」とは、援助者が感情に飲み込まれることなく、感情をコントロールして関わる必要があるということです。

ご入居者様に自由に感情表現していただき、想いに共感しつつも、その心情を冷静に判断し問題の解決に導きます。
援助者が感情的になると、問題の本質が見えなくなってしまう場合があるため、常に自分の心情を俯瞰することが大切です。

ご入居者様の「共感してほしい」というニーズがあります。
お気持ちに寄り添いながらも過度な感情移入をするのではなく、問題解決するという目的を意識しましょう。

4.受容

「受容」とは、ご入居者様の考え、感情をありのままを受け入れるということです。

ありのままを受けとめてもらえることにより、拒絶や否定されるのではないかという不安や恐れから解放されます。
ただし、非人道的行為や自分や他人を傷つける行為は許すべきではありませんので、すべてを許容・容認するということではありません。

ご入居者様への命令や感情の否定は決してせず、「ありのままの自分を受け止めてほしい」という欲求に応えていきます。
「受容」においても、先入観や偏見を持たず、「なぜそのような考えになったのか」を考えていくことが大切です。

5.非審判的態度

「非審判的態度」とは、ご入居者様の行動や考えについて「援助者が善悪の判断をしない」ということです。

バイスティック氏は「クライエントが有罪か否かを裁いたり、クライエントあるいはそれ以外の人びとがその原因をつくった犯人であると決めつけたりしてはならない」としています。
つまり、ありのままの感情を受け入れつつ、一方的に非難したり犯人捜しをしたりしてはいけないのです。

援助者はあくまでも問題解決の「援助」をすることが仕事です。
ご入居者様がご自身で問題解決ができるようにしますが、善悪の判断をする立場ではありません。

ご入居者様のお気持ちに寄り添い、客観的な状況把握をして問題解決の援助をしていきます。

6.自己決定

「自己決定」とは、どのような選択をするかはご入居者様自身に決定権があるということです。

誰でも自分のことを他人に決められたくはないですよね。
援助者は常にご入居者様の自己決定を尊重する必要があります。
また、そのために自己決定できる環境を整えることも役割の1つです。


自ら決定し行動することができるよう、情報の提供などの援助に努めます。
ご自分の権利を意識していただくことで、自立支援にもつながっていきます。

7.秘密保持

「秘密保持」は、ご入居者様の個人情報などを外部に漏らしてはいけないということです。

どのような仕事においても秘密保持は基本ですが、対人の仕事となると一層重要になります。
「社会福祉及び介護福祉士法」にも秘密保持についての記載があります。

ご入居者様の個人情報を守ることは義務であり、信頼関係にもつながっていきます。

噂話なども個人情報の流出につながるので注意しましょう。
職場全体で個人情報の管理、取り扱いについてのルールの徹底が必要です。

バイスティックの7つの原則と3つの方向

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バイスティックの7原則について解説してきました。

それぞれがご入居者様のニーズに基づいた原則となっていることをご理解いただけたかと思います。
1.個別化 ひとりの個人として扱われたい
2.意図的な感情表現 自由な感情表現がしたい
3.統制された情緒的関与 共感されたい
4.受容 価値ある人間として認められたい
5.非審判的態度 一方的に非難されたくない
6.自己決定 自分で選択し決定したい
7.秘密保持 自分の秘密を守りたい
また、バイスティックの7原則には相互作用の3つの方向というものがあります。

第一の方向
クライエント(ご入居者様・ご利用者様)のニーズ

第二の方向
ワーカー(援助者)の反応

第三の方向
クライエント(ご入居者様・ご利用者様)の反応


解説すると、第一の方向で先に挙げたニーズがあります。

第二の方向でニーズを感じ取った援助者がご入居者様に対して「反応」します。
ご入居者様をありのまま受け入れ、共感をもって接します。

第三の方向で援助者の「反応」を受け取ったご入居者様が気づき、何かしらの方法で伝えようとします。
この方法は言葉に限らず、態度や行動に現れる場合もあります。

こうして相互に響き合いながら、援助者とご入居者様とのコミュニケーションが成り立っていくのです。

ご入居者様を第一に考えるチャームケアの企業理念

バイスティックの7原則では、ご入居者様のニーズを受け入れ、正しく反応するための基本がまとめられていました。

日々の業務の中では、感情的になってしまうことや難しい状況に直面することもあるはずです。
そんな時にこのバイスティックの7つの原則を知っていることで、冷静な判断をする手助けとなります。

チャームケアの企業理念はノーマライゼーションの考え方を基にしており、バイスティックの7原則とも近しいものがあります。
ご入居者様のニーズや価値観を第一に考え、ホームを運営しています。

参考:チャームケアの企業理念

※チャームケアの企業理念の誕生秘話をインタビューした記事はこちら!↓

まとめ|バイスティックの7原則を介護に活かそう

今回の記事では、対人援助の行動規範である「バイスティックの7原則」の内容や意味を解説してきました。

「バイスティックの7原則」は介護だけでなく、その他の職業や対人関係においても活かすことのできる考え方です。
介護職やケースワーカー以外でも、保育士や福祉職、医師や教師といった職業でも役立ちます。

介護職に関わられている方もそうでない方も、ぜひそれぞれの仕事や人間関係に取り入れて円滑なコミュニケーションに活用してみてくださいね。

この記事の監修・アドバイザー

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大野世光(おおのひろみつ)

2017年10月1日、株式会社チャーム・ケア・コーポレーションに入社。
介護系大手企業でスーパーバイザーなどを歴任し、
チャーム・ケア・コーポレーションのホーム長を経て、
教育研修室にてスタッフの教育を実施。
2022年7月から、教育研修部副部長 兼 介護DX推進課長に就任。
介護支援専門員資格、社会福祉主事任用資格を所持。

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