介護現場におけるIT化が必要な理由

介護現場において、IT化が必要とされている要因に「労働力不足」が挙げられます。
超高齢化社会を迎えた今、介護施設の需要が高まるにつれ、介護業界の労働力不足が問題となっているのです。介護業界のIT化により業務の効率化が進むことで、少ない労働力でも質の高い介護サービスを実現できるため、注目が集まっています。

介護職は肉体的にも精神的にもハードな仕事という印象をお持ちの方が多いかもしれませんが、近年厚生労働省も介護職の労働環境改善に力を入れており、国をあげて介護職員が気持ちよく働ける環境づくりが行われています。

介護テクノロジー導入支援事業(ICT補助金)やIT補助金など、介護施設のIT化をサポートする事業もその一つです。労働力不足の改善、働きやすい職場環境づくりの両面で、介護現場のIT化が必要とされています。

IT・ICT・IoTの違い

昨今よく耳にする「IT」「ICT」「IoT」という言葉の意味を、改めて確認しておきましょう。
IT Information Technologyの略。
インターネットなどの通信とPCを駆使する情報技術を指す。

ICT Information and Communication Technologyの略。
情報通信技術と訳され、ITにコミュニケーションの要素を加えたもの。
ITを活用して人と人とのつながりを強めたり、人とものとの間で情報や知識を共有したりする技術や方法を指す。

IoT Internet of Thingsの略。
さまざまなものがインターネットに接続されることで、情報がやりとりできる仕組みを意味する。
照明や電気機器をスマホで遠隔操作できるスマートホームは、IoTを活用した一例。

介護業界におけるIT化とは、主に介護の現場にIT技術を取り入れた機器を導入することを意味します。

※IT技術でホームをサポートする情報システム課へのインタビュー記事はこちら。
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介護現場でIT化を進めるメリット

介護の現場において、IT化を進めることでどのようなメリットがあるのでしょうか。

メリット1:業務の効率化が図れる

一番のメリットは業務の効率化につながる点です。介護職は実際にご入居者様の日常生活をサポートする介助業務だけでなく、日々の様子や提供した介護サービスを介護記録として残す事務作業もあります。

例えば、端末で記録できることで、手書きと比べて記録する時間が短縮でき、すぐに情報共有が行われることで、引き継ぎなどの業務連絡もスムーズに行えるようになります。

厚生労働省の「ICT導入支援事業 令和3年度 導入効果報告とりまとめ」(以下、導入効果報告)によると、IT機器の導入により「文書作成にかかる時間が短くなった」と回答した介護スタッフは約82%にのぼりました。また、約90%の介護スタッフが「情報共有がしやすくなった」と答えるなど、IT機器の導入によって効率化が促進されている、という結果が出ています。

メリット2:コミュニケーションの時間が増える

業務の効率化が図れることで、時間を有効に活用できます。
導入効果報告によると、浮いた時間の活用方法として約52%の介護スタッフが「利用者とコミュニケーションする時間」と回答。ご入居者様との時間を積極的に増やす介護施設が多い、という結果がでました。

また「職員間でコミュニケーションする時間」も約44%と、ご利用者様だけでなく介護スタッフ間のコミュニケーションにも良い影響があることもわかりました。引き継ぎや情報連携にしっかり時間を設けることは、介助業務の円滑化にもつながります。

メリット3:質の高い介護サービスが提供できる

導入効果報告では、時間の活用方法として3番目に多い回答は「利用者の直接ケアの時間」でした。「レクリエーション等行事の準備や回数の増加」という回答もあり、ご入居者様との時間を増やす傾向があるようです。
細やかな介護サービスの提供は、ご入居者様の満足度を高め、将来的には介護施設の収益増加にもつながります。

※出展:ICT導入支援事業 令和3年度 導入効果報告とりまとめ(厚生労働省)
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介護現場のIT化を進めるうえでの課題

実際、介護の現場でIT機器を導入する場合に、どのようなハードルがあるのかを確認していきましょう。

課題1:導入コスト問題

介護スタッフの業務効率を高めるIT機器の導入には、決して安くはない費用がかかります。ICT補助金など国の支援制度もありますが、導入にかかった費用の全てが賄えるわけではありません。
導入に伴い、予算を割り当てられる介護施設や事業所でなければ、IT化を進めることは難しいかもしれません。

課題2:ITリテラシー不足

導入効果報告でも「課題と感じていること」の問いに、実に90%近くのスタッフが「パソコンやソフトに対する職員の苦手意識の解消、職員への研修等」を挙げています。
導入することで業務の効率化が図れることがわかっていても、新しいソフトや機器に慣れるまでの時間や労力に高いハードルを感じてしまう介護スタッフも多いようです。

介護スタッフも高齢化しているため、IT機器に苦手意識を持ってしまうケースも少なくありません。

課題3:導入研修問題

新しい介護機器を入れる場合、機器の使用方法やルールなどをレクチャーするため、導入研修を行います。研修を行うためには、機器に精通している人材の確保やテキストの作成、開催方法の検討など、実際に研修を行うまでさまざまな準備が必要で、検討する事項も多くなります。

介護スタッフが介助業務に追われていて、研修時間を捻出しづらい事業所や施設もあるようです。
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チャームケアのDX化によるIT機器の導入事例

チャームケアは介護スタッフの業務負担を軽減し働きやすい職場を実現するため、ご入居者様へさらに質の高い介護サービスを提供するため、積極的にDX化を推進してきました。

DXとはDigital Transformationの略で、顧客や社会のニーズに対応するために、デジタル技術を活用し業務プロセスやサービスを根本的に変革していくことを意味します。IT化はDX化の一環です。

チャームケアが取り組んだDX化推進の取り組みのいくつかをご紹介します。

1:介護記録の電子化

チャームケアは、2019年に介護記録システムを導入しました。現在は、全スタッフへスマホを配布し、介護記録の電子化に取り組んでいます。

電子化に伴い、手書きしていた介護記録等にかかる作業時間が大幅に減り、残業も削減されました。タイムリーかつスムーズな情報共有が可能になり、蓄積されたデータの分析も行えるようになるなど、働く環境が大きく改善されました。

2:見守り機器の導入

人感センサーやご入居者様の眠りを測定するIT機器も導入しています。機器が検知した各データはアプリを通して自動で記録されるため、介護スタッフの業務負担の軽減にもつながりました。

睡眠については、ご入居者様の申告ベースでしか把握できないことが難点でしたが、IT機器の導入で客観的なデータで判断できるようになり、ご入居者様に合わせたケアが可能になりました。現在は、ご入居者様の健康管理にも役立つ、なくてはならない機器になっています。

ご入居者様がお休みになるマットレスには、自動体位変換器も導入しています。睡眠中の体重移動のデータから、マットレスが自動で対位変換を促してくれるため、床ずれを防止したり、より深い睡眠へ導いたりと、ご入居者様の快適な睡眠をサポートしています。

3:配膳ロボットの導入

チャームケアの一部ホームでは、配膳ロボットが導入されています。愛称が付いている配膳ロボットもあり、ご入居者様にも親しまれています。

一度に6名分ほど運べるため、食事の配膳や下膳の業務自体が軽減できるだけでなく、これまで以上に介護スタッフがご入居者様のお食事のサポートに集中できるようになりました。

※配膳ロボットをいち早く導入したチャーム長岡天神へのインタビュー記事はこちら
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IT機器導入での注意点

どのIT機器を導入するかを決める前に、まず現場の課題を洗い出す必要があります。導入目的を明確にすることで、解決したい課題に最適な機器の選定が可能になります。

また、IT機器を現場でスムーズに導入するためには、定着に向けて介護スタッフに使い方をレクチャーする必要があります。使用にあたってのルール策定やマニュアルを前もって整備しておくと導入研修時に活用できます。

導入後は、実際に使ってみた感想をフィードバックしてもらうと良いでしょう。導入して終わりではなく、現場での問題点を洗い出しフローやルールを見直すことで、さらにIT機器を使いやすくすることも可能です。

働きやすい職場環境とご入居者様へのより良いサービス提供につながる

介護現場のIT化は、業務の効率化につながるため介護スタッフの業務負担軽減が期待できます。空いた時間は、ご入居者様とのコミュニケーションに充てたり、介護サービス向上のための勉強に充てたりと、介護スタッフとご入居者様の両者にとって有意義な時間となるでしょう。

時間のゆとりが心の余裕をもたらし、介護スタッフも気持ちよく介助業務にあたれます。チャームケアは、介護業界の労働力不足問題に有効な手段となるIT化に、今後も積極的に取り組んでいきます。

この記事の監修・アドバイザー

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大野世光(おおのひろみつ)

2017年10月1日、株式会社チャーム・ケア・コーポレーションに入社。
介護系大手企業でスーパーバイザーなどを歴任し、
チャーム・ケア・コーポレーションのホーム長を経て、
教育研修室にてスタッフの教育を実施。
2022年7月から、教育研修部副部長 兼 介護DX推進課長に就任。
2025年7月から、組織改編により、介護DX推進室長に就任。
介護支援専門員資格、社会福祉主事任用資格を所持。

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