介護現場のヒヤリハットとは?

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「ヒヤリハット」とは、その場では大事に至らなかったものの、危うく重大事故につながるようなシチュエーションのことです。
当事者が危険に対して「ヒヤリ!」「ハッ!」とする感覚から、ヒヤリハットと呼ばれます。

介護の現場では、ご利用者様・ご入居者様の健康状態や、スタッフによるヒューマンエラー、介護施設や福祉用品などの物理的な原因など、いくつもの要因が重なって重大な事故が起こる可能性があります。

介護施設でご利用者様・ご入居者様の安全を守るためには、施設のスタッフ全員でヒヤリハットの事例を共有し、危険が起こりうる場面を把握して、対策を練ることが大切です。

ハインリッヒの法則

「ハインリッヒの法則」とは、1件の重大事故の裏側には29件の軽微な事故と300件のヒヤリハットが潜んでいるというものです。

1920年代にアメリカのハインリッヒ氏が提唱した法則で、日本でも、介護業界や医療業界、製造業界など、さまざまな現場で事故防止するための考え方として取り入れられています。

一つひとつのヒヤリハットに対して対策を施し、危険な場面の発生数を減らすことで、大きな事故を防止できるでしょう。

ヒヤリハットが起こる原因

ヒヤリハットが発生する原因は一つだけではなく、いくつかの要因が重なって起きてしまうものです。
事例に対する原因や対策を考える時は、さまざまな角度から分析を行うとよいでしょう。

ご利用者様・ご入居者様の原因

施設のご利用者様・ご入居者様の原因には、高齢による身体的要因が多く見られます。
特に、高齢になるほど体の機能が弱くなり、日常生活での事故のリスクが高まります。

さらに、手足が自由に動かせなかったり、認知症を発症していたりする場合は、健康な人には想像しにくいような場所で転倒や転落が起きるケースもあるでしょう。

施設では、お一人おひとりのご利用者様・ご入居者様の状態や変化を把握し、適切な介助が必要です。

ご利用者様・ご入居者様の原因の例

  • 麻痺やケガ、筋力の低下により手足が不自由である。
  • 認知症を発症しており、平衡感覚がつかみにくい。
  • 認知機能の低下により、危険を察知する力が衰えている。
  • 内服薬の副作用により、めまいやふらつきが起こりやすい。


介護スタッフ側の原因

介護スタッフによるヒューマンエラーがヒヤリハットにつながる場合もあります。

スタッフ側の原因を解決するためには、常に正常な判断ができるように休息をとることや、ご利用者様・ご入居者様をサポートする人員数の見直しなど、スタッフが無理なく働ける仕組み作りが必要となります。

介護スタッフ側の原因の例

  • スタッフ同士の申し送りが不十分だった。
  • 長時間労働による疲労・体調不良・ストレスにより判断能力が低下していた。
  • 「〇〇しなくても大丈夫だろう」という思い込みがあった。
  • 本来チェックすべき状況に抜け漏れがあった。


介護する場所・環境の原因

ヒヤリハットの原因として、施設の設備や福祉用品などの物理的な要因も考えられます。
たとえば、健康な方から見れば小さな段差でも、ご利用者様・ご入居者様にとっては大きなハードルになっていることがあるでしょう。

ご利用者様・ご入居者様目線に寄り添った施設作りを進めるとともに、ヒヤリハットが発生した場合は、早急に改善することが大切です。

介護する場所・環境の原因の例

  • ベッドや車椅子などの福祉用品の高さがご利用者様・ご入居者様に合っていない。
  • 玄関や風呂場、階段など、ご利用者様・ご入居者様の動線に段差があった。
  • 設備や福祉用品のメンテナンスを怠っていた。


ヒヤリハットを回避し、事故を未然に防ぐには?

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大きな事故につながる恐れのあるヒヤリハットを防ぐためには、どのような対策をすればよいのでしょうか。
ここでは、介護施設で発生してしまったヒヤリハットの事例を活かし、事故を防止するためにできることを解説します。

ヒヤリハット報告書の作成

ヒヤリハットが発生した際は、都度、報告書として記録に残しておきましょう。

報告書を作成する理由は、事故の再発防止はもちろんのこと、万が一事故が発生してしまった場合に、施設・ホームが適切な対応を積み上げてきたうえでのやむを得ない結果だと証明する材料になるからです。

また、日頃から問題を発見し、工夫と改善を積み重ねることで、ご利用者様やご入居者様へのケアが向上し、施設やスタッフへのご満足につながるでしょう。

ヒヤリハット報告書を作成する目的

  • 事例の原因を考え、対策を練るため
  • スタッフ同士で事例を共有し、再発防止に活かすため
  • 事例を蓄積することで、施設内の危険な場面を把握するため
  • ご利用者様・ご入居者様への適切な声かけ、注意喚起を行うため
  • ご家族様や外部への証拠として使用するため


ヒヤリハットの事例の共有・検証

ヒヤリハットが発生した場合、当事者だけでなく、働くスタッフ全体で事例を共有・検証しましょう。
朝礼やミーティングで事例を紹介し、改善策のアイデアを出し合う場を作るのもひとつの方法です。

また、スタッフ同士での共有だけでなく、ご利用者様・ご入居者様・ご家族様にもポスターの掲示や声かけにより注意を促すことで、施設全体の事故防止への意識が高まります。

ヒヤリハットを報告しやすい環境づくり

スタッフの中には、ヒヤリハットが発生した際に、一人で責任を負おうする人や、自身の評価に関わるのではないかと不安を抱き、報告せずに隠してしまう人もいるかもしれません。

上司や先輩としては、部下や後輩、新入社員の個人のミスを責めるのではなく、「事故の原因は人的なミスだけでなく、仕組みや環境などさまざまな理由が重なって発生する」「どうして起きてしまったのか、これからどう改善すればよいかを一緒に考えよう」と協調の姿勢を見せていくことが大切です。

ヒヤリハットの報告書の書き方、基本的なルールとコツ

ここでは、ヒヤリハットの報告書を作成する際の基本的なルールとポイントを解説します。
報告書は、社内だけでなく、ご家族様など外部の人が目を通すこともあります。
そのため、誰が見ても内容を理解できるように、わかりやすく書くことがポイントです。

客観的な事実を記載する

報告書には、発見者が「見たままの内容」「聞いたままの内容」を簡潔に書きます。
日数が経って記憶があいまいな場合は、はっきり覚えている事実のみを記載しましょう。
「〇〇ではないか」「〇〇とみられる」などの推測を書く場合には、事実とは分けて文末に書きます。

5W1Hを意識して記入する

報告書に記入する際は、5W1H(いつ、どこで、だれが、なぜ、どうした)を意識して書くと、誰が読んでも一目でわかる文章になります。

介護施設のヒヤリハット報告書であれば、次のような項目を記載したフォーマットを用意し、すべてのスタッフが5W1Hに沿って記入できるようにしておきましょう。

ヒヤリハット報告書に記載する項目

  • 対象者(誰が)
  • 発見者
  • 日時(いつ)
  • 場所(どこで)
  • 内容(どうなった)
  • 原因(なぜ)
  • 今後の対策(どうしていくのか)


専門用語や施設独自の言葉を避ける

外部の人が読んでも一目でわかる報告書を書くために、専門用語や施設独自の用語、略語などの使用は控えましょう。​

たとえば、専門用語にはカッコ書きで補足説明を加えたり、アルファベットの略語であれば正式名称で記入したりすると、現場にいない人でも内容を理解しやすくなります。

介護現場のヒヤリハットの事例と対策

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ここでは、介護現場で起こりうるヒヤリハットの事例と対応策を紹介します。
事前に「この場面ではどのような危険があるか」と把握することで、スタッフの介助方法や声かけを見直しやすくなるでしょう。

入浴中の事例と対策

事例1)お風呂場で転倒しかけた
内容:ご入居者様がカランから浴槽へ向かう途中に、足を滑らせてバランスを崩した。
原因:身体を洗った後のボディソープの泡が床に残っていたため、床が滑りやすくなっていた。
対策:浴槽までの移動の見守り介助前に、シャワーで泡をしっかり流す。また、床に滑り止めマットを敷く。

事例2)浴槽で溺れそうになる
内容:ご入居者様が浴槽内で溺れかけた。
原因:浴槽が大きいため、浴槽内で座位を保つことが出来ない。ヒートショックによる急な血圧の低下。
対策:自身の体幹・足で座位を保てるように、入浴台や滑り止めマットを活用する。入浴中は浴槽脇で会話をしながら見守りを行う。入浴前に脱衣所・浴室を暖めておく。

移動中の事例と対策

事例1)歩行介助中のふらつき
内容:食事場所への歩行介助中にご利用者様がよろけ、転倒しそうになった。
原因:ご利用者様の筋力低下による膝折れ。履物(リハビリシューズ)を踵を踏んで履いていた。
対策:歩行途中に休息できる椅子やソファを廊下に設置する。杖やバギーなどの歩行補助具を使用する。歩行介助前に正しく履けているか確認する。

事例2)車いすから滑り落ちそうになった
内容:車いすへ移乗介助の後、フットレストに足を乗せたところ、フットレストに足を乗せたまま立ち上がろうとされ、車椅子ごとバランスを崩して滑り落ちそうになった。
原因:認知症で状況理解が難しく、そのまま歩いて移動しようとされた。
対策:フットレストに足を乗せる際に、片手でご本人様の身体に触れておく。または上体の動きを目視確認しながら介助を行う。

お食事中の事例と対策

事例1)差し入れのりんごをのどに詰まらせた
内容:ご家族様が持参されたりんごを、ご入居者様が居室で召し上がる際にのどに詰まらせ、激しくむせた。
原因:ご家族様とご入居者様の嚥下状態を共有できていなかった。
対策:ご家族様とご入居者様の健康状態を共有する。ご家族様が食べ物をご持参いただく際の食べ物の形状にご配慮いただく。または、事前にスタッフお預けいただき、スタッフが一口サイズにカットするなどしてからお届けする。

事例2)薬を落としそうになった
内容:ご入居者様が薬袋を破った際に、薬を落としそうになってしまった。
原因:ご入居者様の手がすべってしまった。周囲に薬を受け止めるものがなければ、落下していた。
対策:薬を飲む際はお盆を用意し、お盆の上で取り出していただく。

また、次の記事では当社で行っている落薬対策を紹介していますので、ぜひご覧ください。

介護現場のヒヤリハットは、リスクマネジメントに役立つ

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介護の現場では、スタッフがどんなに注意をしていても、事故やヒヤリハットが発生してしまうものです。
起きてしまったヒヤリハットの事例を報告書に記録し、都度改善を施すことで、今後の重大事故の防止に役立ちます。

「ヒヤリ!」「ハッ!」と焦ってしまった経験を活かして、ご利用者様・ご入居者様にとって安心して生活できる環境を、また、スタッフにとって働きやすい現場を作っていきましょう。

株式会社チャーム・ケア・コーポレーションでは、「介護が必要な状態になる前に、介護予防や自立支援を通して、ご自分で生活を送れるようになる」未来を目指しています。
次の記事では、当社の施設の具体的な取り組みやご入居者様の様子を紹介していますので、ぜひご覧くださいね。

この記事の監修・アドバイザー

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大野世光(おおのひろみつ)

2017年10月1日、株式会社チャーム・ケア・コーポレーションに入社。
介護系大手企業でスーパーバイザーなどを歴任し、
チャーム・ケア・コーポレーションのホーム長を経て、
教育研修室にてスタッフの教育を実施。
2022年7月から、教育研修部副部長 兼 介護DX推進課長に就任。
介護支援専門員資格、社会福祉主事任用資格を所持。

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