介護における行動変容とは?

生活習慣病や介護を予防し、健康に生活していくためには、食事、運動、睡眠、喫煙、飲酒等の生活習慣を改め、良い生活習慣を身に付けることが重要です。
しかし、ご入居者様やご利用者様だけでなく、20~40代といった比較的若い世代であっても、長年かけて培った習慣を変えることは容易ではありません。

その理由は、私たちの「習慣」は、普段の生活の中で何気なく行っている「行動」から成り立ち、行動は今までの経験や学習から成り立っているからです。

その行動や習慣を変えるため、介護予防やリハビリの分野では、「行動変容」という言葉が使われています。

今回は介護における「行動変容」について解説していきます。

行動変容の意味を解説

行動変容とは、言葉の通り「人」の「行動」が「変わる」ことを指し、望ましい行動を増やし(強化)、望ましくない行動をなくしていく(消滅)ことを言います。

一般的には「行動療法」と同じ意味で使われています。
現在では、心理分野だけでなく、介護や教育、ビジネス等の場面でも用いられる用語です。
具体的には、食事や運動をはじめ、健康に関する「行動」について活用されてることが多くなっています。

「行動変容」の考え方では、人の行動は経験に基づいた学習によって変わると言われています。
ではどのようにして「行動」は「変わって」いくのでしょうか?

まずは行動変容の5つのステージと、3つの要素、3つのポイントを押さえてみましょう。

5つの行動変容ステージモデル

もともと「行動変容ステージモデル」は、1980年代前半に禁煙の研究から始まった考え方です。
現在では行動変容をしたあと、その習慣を維持するために幅広く活用されています。

行動変容ステージモデルでは、人が行動(生活習慣)を変える場合は、以下の資料のように「無関心期」→「関心期」→「準備期」→「実行期」→「維持期」の5つのステージを通るとされています。
 (6045)

行動変容の対象者(介護の場合はご入居者様やご利用者様)が、このステージのどこにいるかを知り、適した支援をすることで、行動変容を促すことができると言われています。

図の中で一番左側にある無関心期は、まだ行動を変えることに関心がないというステージ。
そのため、急に運動することやリハビリ等を実行することを約束したり、身近な人に公言するようにアドバイスしたりしても、ほとんど効果は現れません。

しかし、無関心期に適したアプローチすることで、効果が現れやすくなります。
たとえば、このようなことを伝える行為が該当します。
・行動変容のメリット(運動すると筋力が付き、春にはお花見に行ける等)
・このままでいることのデメリット(運動不足が続くと、次第に歩けなくなり、怪我が増える等)

例として、厚生労働省の「健康づくりのための身体活動指針(アクティブガイド)」では、今より10分多く体を動かす「+10(プラステン)」を勧めています。
このように、それぞれのステージに合わせた目標を立ててアプローチし、次のステージへの移行を支援することが大切です。
 (6081)

習慣を変えるための3つの「行動」

人の行動はさまざまな種類がありますが、習慣を変えるための「行動」とはどのようなことを指すのでしょうか?

それは、「STOP」(やめること)、「START」(始めること)、「CHANGE」(変えること)の3つ。

ご入居者様・ご利用者様に起こりうる場面を例に挙げて見てみましょう。

STOP(やめること)

(例)間食をやめる、飲酒を控える

START(始めること)

(例)簡単な運動をする、健康体操教室に通い始める

CHANGE(変えること)

(例)近所の友達と電話でお話するだけではなく、家まで徒歩で会いに行く
 (6080)

行動変容を支える関わり方の3つのポイント

では、ご入居者様やご利用者様の行動を変え、生活習慣を変えていくために、介護スタッフにはどのような支援ができるのでしょうか?

介護におけるご入居者様やご利用者様の行動変容を促し、支援する3つのポイントをご紹介します。

コーチング

コーチングとは、相手の話を聞いた上で、観察や質問、ときに提案などをして、答えを引き出す目標達成の手法のことです。
行動変容においては、ご本人が主体となり、目標と具体策を考え取り組むために活用されます。

介護の現場では、ご入居者様やご利用者様を「主体」と捉え生活のお手伝いをしていきますが、行動変容においても理論は同じ。
介護スタッフが相手を「変える」のではなく、ご入居者様・ご利用者様、ご本人が自らの考えで、「行動」を「変容」させていくことが大切です。
あくまで行動を変えられるのは「その人ご本人」ということですね。

行動変容していくために、まずは以下の点をご入居者様やご利用者様と一緒に振り返ってみましょう。
①その(古い)行動・習慣を続けることで、得たものは?
②その行動・習慣を続けることで、1ヵ月後(半年後、1年後、3年後、5年後、10年後…)にはどうなっていそうか? また逆に、何を失っていそうか?その時は、どんな気分だろうか?
③新しい行動を始めることで、1ヵ月後(半年後、1年後、3年後、5年後、10年後…)には、どうなっているだろうか? 逆に何を手に入れているだろう?その時は、どんな気分だろうか?

ソーシャルサポート

ソーシャルサポートとは、家族や友人、同じような状況にある人々との、社会的関係の中で生まれる支援や援助を指します。

大きく分けると「情緒的サポート」と「手段的サポート」の2つに分けられます。

ご入居者様やご利用者様に当てはめて、考えてみましょう。

・介護予防の必要性をご家族様やご友人に理解してもらい、ご入居者様・ご利用者様を励ましてもらう(情緒的サポート)
・介護予防のためにレク会場まで送迎してもらい、参加できる条件を整えてもらう(手段的サポート)

これらのソーシャルサポートは、当事者との関係が深いほど有効です。
また、習慣や行動が変わっていくことにより、その周りの人々の行動変容にもいい影響を及ぼすでしょう。

自己効力感

自己効力感とは、「自分がその行動をうまくやれるという自信」のことです。

自己効力感は、無関心期から維持期にかけて高まります。
その行動を実行できる可能性が高まったり、失敗や困難があったとしても諦めにくくなるため、継続できるかどうか不安がある行動期に大切になってきます。

行動するのはご入居者様・ご利用者様ご本人ですが、介護スタッフは変化の可能性や行動を起こす意義を伝え続け、自己効力感を援助することが必要です。
自信は、行動変容を進めていくために大きな力となります。

行動変容で元気に高齢期を過ごす

ここまでは、行動変容ステージモデルとポイントを解説してきました。

高齢期を元気に過ごし、生活への満足度を高めるには、良い生活習慣に変え、前向きに毎日を過ごすことが大切です。

行動を変え、良い生活習慣に変えていくのは、ご本人の主体性はもちろん、周囲の環境やサポートが欠かせません。
ご本人のお気持ちを理解し、ステージに合わせた従業員からの声掛け等の支援が必要です。

では、介護現場における行動変容について、失敗例と成功例を見てみましょう。

※ここで挙げる例は、実在のご入居者様とは関係ありません。
〈事例〉
Aさん 75歳男性
昨年より、チャーム○○にご入居し、生活されている。
囲碁を打つのが好きなので、毎日ホーム内の仲間と楽しく囲碁をされていたが、先月外出先で転倒したことをきっかけに、居室内から出るのが億劫になってしまったご様子。

大きな怪我はなかったものの、「またみんなで囲碁をしたり、息子家族と外出したいが、人と会うと疲れるのでいやだ。」とお話しされていた。
 (6079)

失敗例|介護スタッフ主導の行動変容

Aさんは運動が足りていないので、介護スタッフが体操などの軽運動の計画を立て、お誘いした。

しかし、Aさんは「やりたくない」とおっしゃったので、ご家族様(息子さん)に相談し、息子さんからAさんに運動をするように伝えてもらった。

すると、Aさんは怒りだしてしまわれた。
この失敗例では、Aさんご本人のお気持ちや現在の行動変容ステージモデルに配慮をせず、介護スタッフが勝手に話を進めてしまいました。

介護スタッフだけでなく、ご家族様と一緒に働きかけることは、ソーシャルサポートを活用したという意味では良かったですが、Aさんはご自身が抱える不安な気持ちをないがしろにされた状態といえます。

工夫されていた点はあったものの、以上のような理由で行動変容には至らなかったと考えられます。

成功例|ご本人主体の行動変容

介護スタッフが、世間話の延長線上で、Aさんに今のお気持ち、今後やってみたいと思っていることなどをお聞きすると、「本当は元気なうちに、息子家族と外出して食事をしたり、故郷まで一度でいいから行ってみたい」とのこと。

そこで、介護スタッフは、Aさんが行動変容ステージモデルでは、無関心期ではあるものの、少し行動を変えることに関心があるのではないかと推測。
今のままでいると遠出の外出は難しいが、毎日少しずつ歩いて身体を動かしたり、また仲間と囲碁をして、前向きに過ごすことで、体力が回復し、外出できるのではないかと具体的に助言をする。

するとAさんは、「もう歳なので、また転んで骨折するんじゃないかと身体を動かすことが怖い」とお話しされたので、リハビリスタッフに様子を見てもらいながら、軽運動のプログラムを考えてもらい、実践していけば、転倒のリスクが下がることをご提案。

Aさんはまだ少し不安そうだったが、「まずは、明日部屋から出て囲碁でもやろうかな。リハビリの人にも一度会ってみたい」と話してくださった。
この成功例では、Aさんの行動変容ステージモデルがどの時期であるか、Aさんのご様子や表情、お話の中から丁寧に観察し、アプローチの方法を考えています。

さらに、Aさんを主体としてどのようにされたいかを介護スタッフが伺い、コーチングの視点を持って関わっています。

今のままであるときのデメリットと、行動変容をした際のメリットを、Aさんの立場に立って提案しています。
介護サービスの一環としてあくまでも自然に関わることにより、Aさんの気持ちが少しずつ変わり、関心期に少しずつ移っていき、行動変容をサポートすることができました。
 (6078)

まとめ|行動変容で生活の改善を支援しよう

誰もが生活習慣病や介護を予防し、健康に生活したいという願いを持っています。
ですが、長年の行動や生活習慣を変えることは容易ではありません。

行動変容ステージモデルを正しく理解し、ご入居者様やご利用者様のご様子を観察し、チームで支援をしていくことで、行動と習慣を変えていくことはできます。

ご入居者様やご利用者様がプラスの方向に変わっていく姿を目にすることは、介護の仕事の中でとてもやりがいを感じる瞬間です。

まずは、自分自身の生活の中で変えたい、行動・習慣についてセルフコーチングをすることから始めてみてはいかがでしょうか?

この記事の監修・アドバイザー

 (6077)

大野世光(おおのひろみつ)

2017年10月1日、株式会社チャーム・ケア・コーポレーションに入社。
介護系大手企業でスーパーバイザーなどを歴任し、
チャーム・ケア・コーポレーションのホーム長を経て、
教育研修室にてスタッフの教育を実施。
2022年7月から、教育研修部副部長 兼 介護DX推進課長に就任。
介護支援専門員資格、社会福祉主事任用資格を所持。

関連する記事

関連するキーワード

著者